人の欲が執着となり業が宿る時 (曜変天目茶碗編)

美術品には業が宿るって言いますが、その業の正体ってなんなんでしょうか。
いやあれはあかん。まじであかんよ。

曜変天目茶碗の中のブラックホール

人の欲が執着となり業が宿る時で幽霊画を見た後、谷中からいざ六本木へ。
サントリー美術館へとやってきました。
「はー六本木に美術館かあー」「サントリーってお金持ちなんだねえー」
知性の欠片もない落女の会話です。

何が目的かって、曜変天目茶碗。
書いているお話で、贋作師である主人公が最終話で出会うのが、この曜変天目茶碗をモデルにした架空の美術品。
なので、一度は実物を見ておかねばなりません。
「国家予算額がつくほどの国宝」とは、いったいどんなものなのか、そこに渦巻くエネルギーを感じたかったのでした。

順路に従って進むと、最初は書画の部。
「読めないねえ」「何書いてあるかわかんないねえ」
知性の欠片もない落女の会話です。

次の間へ行くと、どうやらいよいよ曜変天目茶碗に会えるようです。
そのフロアに進むと

「入れん」

ぱっと見どこに茶碗があるのかわからないのですが、足が固まってしまって入れないわたくし。
入っちゃいけない、見ちゃいけない感覚で、体が進んでいかないのです。
茶碗は順路の一番最初にあり、目の前に見えているガラスケースの中でライトアップされているのが、どうやら茶碗のようです。
意を決して進みます。

茶碗の中の宇宙とはよく言ったものです。
瑠璃色の光を放ち、ただ茶碗はそこに静謐と鎮座していました。

どんだけの人がこの茶碗で死んだんだろうか。

「ブラックホールみたいね。吸い込まれそう」
美術品は、貴重であればあるほど、そこには金と欲が渦巻きます。
偽物が出回るのも、そこに欲があり、利用するものがあり、金が動くからです。
そんな、人間の業を全て吸い込み知らん顔をして、茶碗はただ静かに置かれています。

本物ってなんだろう

その曜変天目茶碗は、国宝で秘宝中の秘宝。
未だ贋作を作ることができない、謎の技術です。(曜変を再現することに成功したという陶工師はいらっしゃるようです)

世界に3つ(4つ説もある)しかないとされる曜変天目茶碗は、全て日本にあるそうです。
なぜ日本に全てあるのか、なぜ3つしかないのか、そして、作者はなぜ不明なのか、そこに様々なドラマがありそうです。
3つしかないから、手に入れようとするものが現れ、希少価値が生まれ高値が付く。
手に入れるための金、手に入れた後の重さ、人を惑わす美術品の魔力。

曜変天目を作ったのは中国の陶工師と言われていますが、名を残してはいません。
国宝になったことを知ったら、作者はなんと言うのでしょう。

曜変天目を再現する技術を誰かが手に入れた時、その者が作る天目茶碗と、国宝の曜変天目茶碗と、どちらが本物なのでしょうか。
本物ってなんだろう。何を以って本物って言うんだろう。

わたしには、あの茶碗の周りにうごめく得体の知れない何かと、茶碗の中の静謐とのギャップが強すぎてクラクラしてしまいました。
あかん。横になりたい。

閉館30分前ということで、曜変天目から離れて他の茶碗や茶道具を見て回ります。
天目茶碗は曜変天目だけではなく、菊花天目や油滴天目があり、展示されていました。
「お前をみてると安心するなあーーー」
重要文化財です。

 

最後にもういっぺん曜変天目茶碗を拝み、美術館を後にしました。
主人公の最終回の詰めのセリフが決まりました。
あとは肝心の第1話のテーマをきめるのみです。第1話って難しいのですよ。下手すると、独り言で自己紹介をし始める80年代の少女漫画になりがちです。
「おっす、おら悟空!」というわけにもいきませんしね。

曜変天目茶碗、一度は実物を見てみることをおすすめします。
あれは、あかん。もう、あかん。夢に出るよ。

「でも、あれにお抹茶入れて飲みたいとは思わないわね」
確かにその通り。侘び寂びってなにそれという出で立ちの茶碗だし。
国家予算並みの国宝でも茶道具には使えないってあたりで、お後がよろしいサゲとなりました。