服装は?予約は?差し入れは?わりと自由な寄席のお作法




その昔の寄席は「悪場所」と言われ、女性が一人では行けない怪しい場所でありました。
そんなこともあり、酔っ払ったおっさんしかいないイメージが未だに残っていますが、今では女性同士も訪れるナウでヤングなスポットに変わりつつあります。
イケメン噺家が出演の時など、女性の行列ができているようですね。両国亭には酔っ払ってないけどおっさんばかりです。助けてください。

東京オリンピックを前に、伝統芸能のひとつやふたつの知識があることも、キャリアウーマンの嗜みのひとつ(知らんけど)。
寄席の常連であることもステイタスとする、偏った先見の明を持ったあなたのために、寄席初めて女子が知っておくと安心な「寄席のお作法」についてお話しします。

寄席とはなんぞや 好きな時に出入りできる気軽な場所

寄席の始まりは江戸後期です。興行主が興行を行うための小屋を用意し、そこに噺家も呼ばれ高座をかけるようになりました。今と同じように、落語の他にも音曲や講談なども行われたといいます。


落語の文化は、歌舞伎を模倣したものです。
ただ、歌舞伎のような高尚なものに変化はせず、大衆芸能のまま現在に至っています。従って歌舞伎ほどやかましくありません。
寄席に行くためには、予約は必要なく(国立演芸場は要予約)、上演中はいつ入っても大丈夫です。出るのも自由です。概ね3~4時間の間に、何人もの噺家が入れ替わり立ち替わり来て、演目をかけていきます。

寄席に行くのにどんな格好をしていけば良いの?

一番多い疑問が「服装」です。確かに、歌舞伎座の前には、他人の着物にまで目を光らせている100年も前から着物着てますみたいな人がいますね。心配になるのもわかります。

しかし、寄席の場合は全くもって普段着でオッケーです。スーツの人もいれば、近所の人が夕涼みに来ることもあります。
夏の夜席なら浴衣でも大丈夫。気軽に入れる場所なのです。

寄席が開場になると、太鼓が鳴ります。「どんとこい、どんとこい」と鳴る一番太鼓です。
この太鼓を叩くのは前座の役目です。鈴本演芸場と両国亭は、外で前座さんが太鼓を叩いているのを見ることができます。

開演時間の合図が二番太鼓。開口一番で前座が出てきて、いよいよ寄席の始まりです。

あまり用を成さない寄席の桟敷席

歌舞伎の会場には、住むところが違うような方々が座っている「桟敷席」があります。
この桟敷席は、なんと末廣亭にもあります。

歌舞伎の場合は庶民じゃないお客様がお座りになる桟敷席ですが、末廣亭の場合は椅子席がいっぱいの時に案内される席です。
歌舞伎の桟敷席のお値段はお高いですが、末広亭の桟敷席は同じ木戸銭です。
浅草演芸ホールには、座ると高座が見えないという謎の桟敷席があります。こちらも高座が見えないのに木戸銭は同じです。

飲酒飲食はマナーの範囲で 正月には酒を用意している両国亭

寄席での飲食は基本オッケーです。歌舞伎のように幕の内弁当は用意されていませんが、売店があればお弁当や助六寿司を購入できます。外からの持ち込みも可能です。ただ、匂いがきついものや音が出るものは避けた方が無難でしょう。

両国亭ではお酒も飲めます。浅草演芸ホールの謎の桟敷席では、「飲酒おことわり」と書いてあるわりには、酒飲んでひっくり返っているおっさんがたまにいます。売店や自販機ではビールが売られています。どうやら問題ないようです。
国立演芸場は、飲食共に禁止です。その代わり、設備の全てが立派です。我慢しましょう。

他のところの寄席はわからないのですが、両国亭では正月にはお酒を用意しています。
正月の楽屋では噺家も酔っ払っていますので、安心してどうぞ。

正月といえば、楽松が前座の頃、今は亡き若竹での正月興行で大いに気持ちよくなっているお客様がいて

楽松「すみません、御酒はお控えに…」
お客さま「なにい?俺はお前たちが出してるそこの樽酒飲んで酔っ払ってんだぞ」
楽松「どうぞお飲みください」

ということがあったそうです。
実際はこんなサゲで終わらないので、御酒は人様に迷惑をかけない程度のお召し上がりがマナーでしょう。

差し入れは楽屋を訪ねて渡しても良い?

お目当ての噺家さんにお土産や差し入れを渡したい場合、初めての場合は受付にお願いしたほうが無難です。
その際、自分の名刺やお手紙など誰からのものがわかるようにしておくと、送られた噺家さんも安心します。
メールアドレスを記載しておけば、お礼のメールをしてくれる噺家さんもいます。

差し入れは、お酒やみんなで食べられるものなど、形が残らないものがベスト。
うちの場合、トリの師匠は前座さんに食事代を渡すのですが、そんな時にも分けて持たせることもできますし、楽屋みんなでいただくこともできます。
お酒は大歓迎という噺家さんも多いですね。
うちの楽松は飲みません。飲みは櫻庭が責任を持って果たします。

困ってしまうのが、大きな花束。噺家さんの多くは電車通勤ですし、場合によっては次のお仕事が入っています。やはり、残らないもの、食べられるもの、かさばらないものがよいでしょう。

おひねり文化は落語にもあるの?

かさばらないものの代表が「おひねり」ですが…。
時々寄席などで、噺家が高座から下がる時に舞台の下から何やら封筒を渡している旦那がいらっしゃいます。これが、噂にきく「おひねり」というものです。
私が知る限りでは、渡す方は殿方が多いようですね。お座敷の席では、女性からいただくこともあるようです。

さて、いったいおひねりというものはいくら封筒に入っているのかという大きな謎があります。
いくらなのかは櫻庭も聞いたことがありません。知らなくても良いと言われて育てられました。
バブル期には1束入ってたこともあるようですが、本当のところどうなのでしょう。

わからないのなら「おひねり」という形で包まないほうがスマートかも。
この場合、「お食事代」「お車代」など、金額が想像出来る口実で、ぽち袋に入れてそっとお渡しするのが粋だなと感じています。

噺家を食事に誘ったり、話しかけるのはOK?

出て行け出て行けと鳴らす「追い出し太鼓」で、今日の寄席はお終いです。

寄席から外に出ると、寄席の出口や近所の飲み屋などで出演後の噺家に出会うこともあります。
そんな時には、今日の感想や激励の言葉をかけてみましょう。噺家にとって「よかったよ!」の声は、明日からの生きる糧なのです。

しかし、高座を下りた後の噺家に「面白いことやって」「小噺やって」とこちらから強請るのはご法度。
噺家の噺は、プロのお仕事です。お願いするなら、それなりの金額を出して「お座敷」を依頼しましょう。

ファン同士で噺家を囲んで打ち上げるところもあります。
打ち上げの席で噺家と話すのは、もちろんアリです。楽しい話もたくさん聞けるでしょう。

うちの楽松も、寄席の後は飲み会をしています。
噺家とファンとで落語談義に花が咲くと言いたいところですが、うちのファンはランナーが多いので走る話が84%です。
落語の話は櫻庭が請け負っています。
ランナーさんも落語好きさんも、双方満足度100%(当社比)の打ち上げとなっておりますので、いらしてください(懇願)。


寄席にはホール落語会では味わえない空間と雰囲気があります。
お作法というほどの堅苦しいものではありませんが、先人たちが作ってきた文化があります。せっかくなら粋人になって楽しみたいものですね。

寄席通いをしていると、「この小噺を始めたってことは、前の師匠があの噺をやっていたし、今日のトリはあの師匠だし、きっとアレがくるな」という、名探偵並みの根多予測力が発揮できるようになります。
そうなれば、あなたも立派な落語通。寄席通いでしか身につけられないスキルです。

追記:数多くの寄席に通い多くの噺家さんと交流がある、噺家・落語通の中島透さんからの追記です。
ありがとうございます!

中島 透 さん
寄席の客席での飲酒OKは、鈴本演芸場と浅草演芸ホールです。
逆に、新宿末廣亭と池袋演芸場では(国立演芸場も)飲酒出来ないのでご注意下さい。
永谷商事のお江戸日本橋亭、お江戸上野広小路亭、お江戸両国亭などは飲酒制限はありませんが、一般的にホール落語と言われる場所は、飲酒どころか、一切の飲食が禁止されている所が多いので、注意すべきです。