落語の枕とは?演目と継承元までわかる枕の奥深さ

落語には、噺の本題に入る前のちょっとした話があり、これを「枕(マクラ)」と言います。「この前も同じ小噺だったなあ」とかおっしゃる方もいらっしゃいますが、枕とはそういうもので、「この噺にはこの枕」と決まっているものなのです。

したがって、枕を知ればこれから噺家が何をかけるのかを予測することができます。しかも、どの師匠の型なのかまでわかってしまいます。

もっとも、わかったところで一人で合点するくらいなもので、実生活には何の役にも立ちません。
そんなわけで今回は、落語好き同士でドヤ顔と阿吽ができるくらいの「落語の枕」のお話です。

枕の前の「前口上」

落語は、前口上・枕・本題・サゲという構成でできています。前口上というのは、「え、本日はお暑い中、両国亭へお越しいただき誠にありがとうございます」とかいう、座布団に座り枕に入る前の挨拶です。

この前口上は、噺が落語として確立した頃からあるようです。文政以降に書かれたとされる「諸芸口上集」には「只今高座の儀も恐れませひで、咄を二つ、三つ、つべこべつべこべと喋りまして、各々様方からお叱りも有ふかと思いの外…」という口述速記が残されています。

前口上の型も噺家によって違い、特徴が出るところでもあります。
有名なところでは、先代の鈴々舎馬風師匠の「えー、よく来たな」ですね。

本題に関係ある話が「枕」

前口上の後「なんですか、8月ですってね、早いもんですね」などと世間話や雑談に入ります。最近ではこの「世間話」が枕と言われ、お客様の心をつかむところとなっているようです。

しかし、もともと枕とは今日の演目に関係のある噺を振るものであり、噺の一部でした。
その噺に決まった型があり、噺に関係のない世間話は本来の枕ではありません。

枕は、今日の噺の予告編でもあります。
演目が「花筏」なら相撲興行の話題、「紙入れ」なら白熱している不倫ネタなど、今日の演目に関係ある話を振るのが、本来のお約束なのです。

継承した芸の型によっても違う枕のいろいろ

関係する世間話をひとしきりした後、噺の一部になっている型通りの枕を振ります。
これは、小噺や都々逸、川柳、あるいは時代考証など様々。「権助提灯」や「夕立屋」など、短い落語が枕に使われることもあります。

師匠から噺を教わる時も、枕と一緒に教わります。噺を継承することは、枕も一緒に継承しているというわけです。
六代目圓生師の枕は時代考証の授業のようで、これを演るのは大変そうです。
三遊亭円朝が創作した「心眼」などは、枕も噺の一部になっています。

噺のカテゴリによって、枕は決まっています。
「天下の大泥棒といえば石川五右衛門、しかし落語の出てくるようなのは二衛門半、中にはナシ衛門なんてのも…」とくると、今日は泥棒の噺。「夏泥」「出来心」「締込み」などです。

酒粕を食べて酔っ払っている与太郎や、親子三人の馬鹿が始まったら与太郎噺。「牛ほめ」「かぼちゃや」など季節の与太郎噺が出てきます。

「昔の旅人といえば、手甲脚絆に振り分け荷物」ときたら「ねずみ」、女房が嫉妬する「厩火事」「三年目」の枕には「焼きもちは、遠火に焼けよ 焼く人の胸も焦がさず味わいもよし」という粋な都々逸が語られることもあります。

「遊女三千人御免の場所」とくれば噺の舞台は吉原。
さらに「傾城の恋は誠の恋ならで 金持ってこいが本当のこいなり」とでたら、花魁と職人の純愛「紺屋高尾」「幾代餅」です。
これは、サゲの大きな伏線となっているので、本題の導入部分とした方が良いかもしれません。

次の出番の噺家は、枕で今演っている演目を判断し、自分の演目を決めます。
寄席では同じ系統の噺をかけてはいけない決まりなので、自分の前の噺家が何を演っているのかを知る必要があります。
厳密に言うと枕の内容もついてはいけないんだそうで、「噺に関係ある枕を振るべし」というのは、演者である噺家にとっても重要なことなのです。

楽屋では、

「おい、今なにやってる?」
「まだわかりません」
「枕で何演るか、わかるだろう」

という、前座さんとの会話があるんだそうですよ。

予備知識を学ぶ枕の時間

枕では、本日の演目の予備知識が語られるときもあります。
最近では「吉原」「花魁」「太夫」がわからないので、まず「昔は男性の遊び場というのがありまして、昭和33年に…」と説明しなければならないようです。

「明烏」では、源兵衛と多助が若旦那を騙すために、吉原を「浅草の観音様の裏手にあるお稲荷様」と言います。
昔はこれを聞くと、そこがお稲荷ではなくて吉原だとわかったものですが、今ではどこなのかわからなくなっています。
この「浅草の観音様の裏手」の説明を、噺に仕込むか枕で伏線を張るか、悩みどころとなるわけです。

忠臣蔵にまつわる噺にも長い解説が必要な時代です。「中村仲蔵」「淀五郎」は仮名手本忠臣蔵に挑む歌舞伎役者の噺ですが、まず「忠臣蔵とはなんぞや」から「史実と歌舞伎の違い」を説明して「歌舞伎の世界のしきたり」を枕でやらなくてはなりません。枕だけで一席できそうです。

赤穂浪士たちの沙汰を決めた荻生徂徠の噺「徂徠豆腐」では、枕と本題で忠臣蔵や赤穂事件の史実、荻生徂徠とは誰ぞやを説明します。

それがないまま聴いていたとある前座さんは
「師匠!徂徠豆腐って忠臣蔵の噺なんですね!俺、豆腐好きの先生が出世したイイハナシダナーって思ってました!」
って嬉々として報告してました。謎が解けて何よりです。


枕で今日の演目がわかっても、ドヤ顔で演目を口に出すのは野暮ですね。そういうのは落語好き同士で目で語り合いましょう。
長講の怪談噺の枕で振られる「執念かい?妄念かい?」「うーん、残念だ」でもそう言ってます。