ビジネスに効く落語の聴き方ー商売の心得編





落語を「大人のたしなみ」として聴き始める方も多いようです。最近ではいろいろなメディアで落語が話題になり、国民放送はもとより漫画やイケメン俳優まで落語推しで、もしかしたら何かの陰謀ではないかとすら感じる今日この頃です。

とはいえ、落語はもともとお寺の説法の合間に聴いたり、民話がベースになっていたりするもの。人生の教訓や生きる為の知恵がテーマになっている噺も少なくありません。「毎度ばかばかしいお話」の落とし噺だけではなく、商売哲学やお金の考え方、人間の徳や業を語る噺もあり、大人のたしなみとして十分にその役を担えるものであると言えるでしょう。

そこで今回は、大人のたしなみプラスアルファとして、ビジネスに役立つ落語の聴き方をご紹介。朝礼の訓示や若手の教育研修にも使えますので、管理者様にもおすすめです(ノウハウ系コンテンツ風)。




商人哲学が町人に浸透していた江戸時代

商人哲学の代表といえば「三方良し」。商売は「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」であるべきとする、近江商人の心得です。
この哲学の元になっているのが、石田梅岩の石田心学です。梅岩は農村の生まれでしたが11歳で呉服屋に丁稚奉公に出て、この商家での経験を元に儒学を取り入れた石田心学を世に広めていきます。

石田心学は、これまで「卑しい」とされた商人たちに「商業の本質は交換の仲介業であり、その重要性は他の職分に何ら劣るものではない」と説きました。さらに梅岩は「商人は目先の利益ではなく、儲けを独り占めするのではなく、お客様のためになるものを提供することに目を向けるべきである。これを続けることにより徳となり、人間性が高まりさらに人が集まるようになる」とも説いています。この考えが近江商人の「三方良し」に繋がったのです。

落語「三方一両損」は、この「三方良し」を扱った噺。ストーリーは、左官の金太郎が3両拾って落とし主の大工吉五郎に届けるが、吉五郎は江戸っ子たる者受け取らないという。大岡越前守が1両足して4両にし、2両ずつ両人に渡し、三方1両損にして解決するという大根多です。

よくよく考えると、一番損しているのが落とし主の吉五郎で、金太郎が得しただけのような気もします。
しかし、この噺のテーマは大岡越前守が身銭を切って丸く収めたという名裁き。誰が得したということが問題ではなく、「損して得を取る」が結論なのです。

また、この噺に出てくる金太郎と吉五郎の啖呵は、当時の江戸っ子たちの金銭の価値観を表しています。そんなところも興味深く、聴きどころです。

真っ当以外の商売の道なし

商人とはどうあるべきかを描いた噺もあります。
「鼠穴」は、事件からサゲまでの展開に賛否両論あるため好き嫌いが分かれる噺ではありますが、中盤までのストーリーは現在でも大切にしたい商売の姿勢です。

父親から譲り受けた田地田畑を、兄は金に変え江戸に渡り商売に成功。しかし、弟の竹次郎は酒と女に身を持ち崩し一文無しになってしまう。江戸に出て兄を訪ね奉公させてくれと頼むが、断られる。その代わりにと、商売の元手を貸してもらい喜んだのもつかの間、開けてみるとたったの3文しか入っていない。

吝いな兄を恨み、しかし竹次郎は一発奮起し、その3文を使い藁を買い小銭を数える為のサシを作り、稼いだ金を元手に草履を作り懸命に働き、やがて大店の主人となる。

あの時に借りた3文に利息の2両をつけた兄に返そうとすると、兄が「あの時お前にお金を渡してもお前のためにならないと思い、断腸の思いで3文だけ渡した」と聞き、竹次郎は兄が本当に自分を思ってくれていたことを知る。あのとき苦労をものともせず働くことが出来、こうして商売で成功しているのは、兄が計らった3文のおかげだった。

商売で成功する為には、最初は小さくてもコツコツ真面目に働くことが大切であると説くこの噺には、続きがあります。
この後、竹次郎の人生は悲劇へと一転します。しかし、サゲが「ええええええ」という落ちなので、人情噺のままでよかったと思わないこともないのですが、成功と転落は紙一重であることを思い起こさせます。

人生、何があるのかわからない。だからこそ、成功に胡座をかかず、壊れない何かを大切にしていくことが必要です。
竹次郎の転落に、経営者なら何を思うでしょうか。この竹次郎に「信頼」が残っていれば、再起は可能かもしれません。様々なことを考えさせられる展開となっていきます。

サゲがなければ、人智ではどうにもならない運命や人の業がテーマとなった噺であろうと思います。
実は、この噺の聴きどころは、人生が転落し家族を守るために奔走する竹次郎の姿であり、商売が成功していく行は割とさらりと進みます。とはいえ、徐々に人間性を高めていく竹次郎の変化に、共感し自身を投影する経営者も多いでしょう。聴き方によって、様々な学びが得られる噺です。


年末によくかけられる「芝浜」も、コツコツと働く大切さを説いた話でもあります。女房の機転で夫が性根を入れ替える「夫婦愛」として語られることが多い噺ですが、同時に、博打にのめり込んで身を持ち崩した男が「真っ当に働くことの喜びと幸せ」に目覚める噺でもあるのです。

昨今、お手軽に金を集めて一発当てて成功するというビジネスがもてはやされています。もちろん、時代によって商売の方法や価値観は変わりますから、どれが良い悪いとはいえません。しかし、100年200年と続く企業は、江戸、明治の頃より三方良しを実践し、コツコツと信用と努力を積み重ねてきました。その精神が受け継がれているからこその「百年企業」であると、江戸商人たちは語っているのです。