夏の着物





契約上のあれこれを弁護士さんにお願いすることになり、その対応に追われているうちに疲れ果て、仕事も残っているので新橋炉ばた寄席はパスした。うちの師匠が「台風来るからお客様来るかなあ」と心配そうに出て行くのを見送って、20日の打ち合わせのためのビジネスと落語の関係についてまとめ始める。

集中力が続かないことで定評のある櫻庭なので、ふと夏の着物が気になる。
夏の間に着ていた着物は、畳まずにハンガーにかけて干している。汗ばんだ正絹のものは汗抜きをしているが、そろそろ丸洗いに出した方が良いだろう。洗い張りは無理だな。化繊はエマールで洗おう、などと考えながら佇む。



台風が過ぎたら、絽はお暇願うことになる。単衣の着物に衣替えだ。
絽の季節は短い。どれも、一度か2度しか着ることができなかった。お気に入りの小花柄は白地の正絹のため、天気が悪い日は汚れが怖くて着れない。今年は雨がちで、小花柄は一度しか出番がなかった。

単衣の着物を出してみると、これもまた種類は少ない。
少ないのだが、単衣の季節も短いため、これらもまた一度ずつしか着ないのだろう。
普段に着物を着ていける職場が増えれば良いのだが、ビジネス誌の取材では着物はまだまだ奇異に映る。
そんなわけで、落語関連か時代考証、創作の打ち合わせ時にしか着物にならない。今年の夏は加えて天気が芳しくなかったため、なおさら着物の出番は少なかった。

着物をハンガーに戻し、プロットやらデザイン仕事の続きやらやっていると、うちの師匠が帰ってきた。
「わー、しくじっちゃった」というので何をやらかしたのかと思えば、雨で鞄が濡れて中の着物が濡れたかもしれないという。出してみると、風呂敷はぐっしょり。包まれた着物もしっとりとしていた。

「化繊だから、ハンガーにかけとけば大丈夫だよ」というので、干す。高座に上がって噺をすると暑いので、まだ五所紋の絽だ。そろそろ単衣を持って行った方が良いだろう。

結局今年は着なかった、浴衣と並べて絽をかける。
台風のあとには、単衣の季節がやってくる。