浴衣をまだ畳んでもいないのに秋深し。空気が冷たくなり、すっかり着物は袷と衣替え。
汗の心配をしなくても良い秋冬は、着物でお出かけがしやすく、寄席や落語会にも浴衣か着物かなど悩まずに済む季節です。
しかし、ここで悩むのが「帯」やら「羽織」。浴衣の時はコスプレ感覚でも、着物となると構えてしまうという方が多いようです。
実は、浴衣よりもおしゃれの幅が広いのが着物。半衿や帯揚げ、帯締めなど小物のおしゃれが楽しい粋な装いで、寄席に落語会においでませ!
椅子席ならデコラティブな帯結びは御法度?
最近の寄席はすっかり椅子席となっています。落語会も、ホールで開催されることが多いようです。
そこでよく論争になるのが、和装の女性のマナー。歌舞伎やコンサート、お芝居でも、和服で観劇とは雅で良いものですが、椅子に座るとなると気になるのが帯です。訪問着にお太鼓結び、振袖にゴージャスな帯結びとなると、背もたれにもたれると帯が潰れてしまうため、浅く腰掛けることが多くなります。
これが、後ろの席の人が困ってしまう原因。浅く腰かけた人の頭は、後ろの人の視界をふさいでしまうのです。
ホールの椅子の間隔は、背もたれに背をのせている状態であることを前提に、後ろからも舞台が見えるように設計されています。
特に落語は、噺家が体全体を使った所作も見せる芸です。帯を潰さないようにと浅く腰掛けると、高座が見えない人が出てきてしまうのです。
そこで、寄席や落語会への着物は、控えめなお太鼓か半幅帯で出かけてみてはいかがでしょう。動きやすく、人の迷惑にもならず、こなれた感じを出すこともできます。
といいながら、櫻庭は昔、とある大師匠にご挨拶に行かねばならなかったため、訪問着にでかいお太鼓で末廣亭に行ったことがあります。その時は、お茶子さんの機転で桟敷席に案内されました。さすがのグッジョブです。
枕を使わないお太鼓結びや貝の口でラクチン寄席
どうしてもお太鼓しかできない、名古屋帯しかないのなら、少し小振りな作りにするとよいでしょう。帯枕も小振りなものを使います。櫻庭は帯枕をを使わずに、モスリンの紐だけでお太鼓を作ることもあります。もはやカルタ結びに近いお太鼓結びです。
着物に半幅帯もなかなか乙です。ちょうちょ結びなど子供っぽい結び方ではなく、カルタ結びや貝の口にすると玄人っぽい装いとなります。貝の口は半幅帯だとゆるみやすいので、帯締めでキリッと締めると、アクセントになって可愛らしくおしゃれに仕上がります。
着物はもっと気軽に着て良いはずなのですが、昭和の頃より着崩れは許されない文化になってしまいました。お太鼓やデコラティブな帯結びは、使用する紐の本数が何のプレイかと突っ込みたくなるほど多すぎて、着崩れしても自分で直すこともままなりません。
でも、着崩れしても直しやすい着方なら、いつでもきれいでこなれた着付けに。上質な半幅帯の貝の口結びは、寄席の雰囲気にも合い上々です。
便利な羽織と選び方
着物と帯に慣れたなら、羽織も楽しんでみましょう。
羽織は洋服でいうとカーディガンやジャケット感覚。殿方の羽織となるとやかましいところもあるのですが、女性の場合は自由に楽しめます。
流行は、絵羽の長羽織です。
丈が長く、膝下あたりまであります。しかし、リサイクルやアンティークで出回っているものは大正・昭和時代のものが多く、特に昭和30年〜40年代に作られたものは戦後の社会情勢やオイルショックやらの関係で丈が短くなっています。比較的長めの丈を選ぶと良いでしょう。
着物は柄と柄を合わせるという、洋服ならおしゃれ上級者の技を使います。
色の合わせ方や柄の合わせなどいろいろあるのですが、江戸小紋や少しおとなしい小柄な小紋に、大柄な羽織を合わせるのが一番簡単で失敗がありません。
大正のレトロな感じにしたければ、羽織を華やかなレトロ柄にして、帯揚げや半襟を羽織の色に合わせることでそれっぽくなります。
また、帯がうまく結べない、時間がなくて半幅帯をいい加減なカルタ結びにして出てきたという場合も、羽織は便利です。おはしょりなしの対丈で着た場合も、羽織を着てしまえば目立ちません。うちのはよく「羽織着ちゃえばわかんないよー」と、いい加減なことを言っています。大概正しいです。
秋は重ね着が楽しめる季節。着物も羽織や帯で、夏にはできないコーディネートを楽しみましょう。
最近は寄席にも着物姿が増えて、着物女子が可愛くて至福で眼福(感想がおっさん)。アンティークな着物にブーツを合わせても良いですね。着物で寄席に、おいでませ。